Skip to main content

ねじまき鳥クロニクル@東京芸術劇場プレイハウス

2023年11月10日、東京芸術劇場プレイハウスにて『ねじまき鳥クロニクル』を観劇(2時間50分、休憩込み)。以下、ネタバレ注意です。
原作を読み、稽古場見学もさせていただいたので、予備知識なしで観るのとはまた違った観劇体験ができました。原作の印象と観劇時の印象、および稽古場見学の感想と上演時の感想を並べて書いてみたいと思います。

小説から舞台へ
村上春樹による原作の小説を読んだ時、まず思ったことは、主人公のトオルによる語りが詳細にわたっている、ということでした。一人称の地の文が意識の流れのようで、回想の場面もありました。それなので、舞台化される時にはトオルの独白が多くなるのかな、と予想していました。しかし実際には、独白の回数は予想より少なく、音楽やダンスで表現される場面もあり、スピーディーな場面展開がなされていました。そんな中、しっかりと独白を言っていたのは、トオルを訪ねてくる間宮です。聞き手としてトオルがいるので「独白」という表現は誤りかもしれませんが、途中で遮られることなく約20分間(!)過去の出来事を一人で語っていました。脚本家・演出家にとって、音楽やダンスの力を借りずに、言葉の力で注目させたい場面だったのかもしれないと思いました。

稽古場から劇場へ
今回、株式会社ホリプロから「ねじまきレポーター」に任命され、稽古を見学するという大変貴重な機会をいただきました。稽古場見学の感想はこちらのページからご覧いただけます。
稽古場見学では二つの場面を最後まで、一つの場面を途中まで、見学しました。そのうちの一つ、トオルとクミコが電話で話す場面では、稽古から上演までの間にさらに磨きがかかったことが見て取れました。例えば稽古中、トオルが電話を取るまでの体の動きについて、役者も演出家も一緒になって何度も練習していましたが、上演時には切れ味の良い動きを見ることができました。また、台詞の言い方については、トオルの落ち着きつつも緊張感を持った声色が印象に残っていましたが、稽古の段階よりも強く話される部分があり、役づくり・場面づくりは常に変化するものなのだと実感しました。

考える機会がたくさんあり、面白い作品だと思いました。

(Caution: contains a spoiler.)
On 10 November 2023, I saw and heard The Wind-Up Bird Chronicle at Tokyo Metropolitan Theatre. It was a stage adaptation of a novel by Haruki Murakami. I had read the novel, and I had a chance to visit and see the rehearsal, so my theatrical experience this time was with background knowledge.
(1) From page to stage: When I read the novel, my first impression of it was that the narrative was so detailed. The first person narrative by Toru, a protagonist, was like a stream of consciousness to some extent. Then, I thought Toru would have a lot of soliloquies when performed on stage. However, I was wrong about it. The stage production relied on music and dance to express Toru's thoughts and reminiscence. In such a speedy production, only Mamiya, who visits Toru, had a long soliloquy. He spoke almost 20 minutes! The scriptwriter and the creative team cherished the scene, I think.
(2) From rehearsal to performance: I was appointed as a reporter by HoriPro Inc., and I had a chance to visit and see a rehearsal. The report of the rehearsal was published here (English follows Japanese).
Regarding a scene when Toru and Kumiko talk on the phone, which was one of the scenes that I saw at a rehearsal, I perceived improvements from a rehearsal to a performance. For example, in a rehearsal, the actor playing Toru and the director tried to find a way to express Toru heading to the phone. I liked how the actor did it in the performance at a theatre. Also,  he sometimes spoke his lines more strongly in the performance than he had practiced in a rehearsal. Then I thought that actors' way of doing could be changed little by little after practice and consultation in rehearsals. 
The production made me think a lot. It stimulated my brain!



Popular posts from this blog

インサイド・ウィリアム@三越劇場

2025年3月22日、三越劇場にてミュージカル『インサイド・ウィリアム』を観劇(1時間45分、休憩なし)。 シェイクスピア作品からの引用が多く、シェイクスピア自身も登場するフィクションでした。『ロミオとジュリエット』の原稿と『ハムレット』の原稿が混ざってしまい、ロミオ、ジュリエット、ハムレットが作品を飛び出してシェイクスピアの前に現れ、シェイクスピアどうする!?というのが『インサイド・ウィリアム』の大まかなあらすじです。観劇前にあらすじを知った時、 『Something Rotten!』 や 『The Upstart Crow』 のような笑えるバックステージものを想像していました。それは確かにそうだったのですが、笑えるだけのミュージカルではありませんでした。登場人物がアイデンティティーについて考え始めるという点で、『作者を探す六人の登場人物』のようなメタ構造の作品だと思いました。『インサイド・ウィリアム』では、作者が登場人物にどう生きてほしいと思うか、および、登場人物が自分の人生をどう生きたいと願うかが対立します。その対立を経て、自分の物語の主人公になろうというメッセージが客席に伝わってくる作品でした。「テアトラム・ムンディ」(theatrum mundi)の考え方を舞台上で見せてもらえたように思います。 On 22 March 2025, I saw and heard a musical Inside William at Mitsukoshi Theater in Tokyo.  The musical includes citations from Shakespeare's plays. Shakespeare as a playwright, and Romeo, Juliet, and Hamlet as characters appear in the musical. The plot is about what happens to Shakespeare when his drafts of Romeo and Juliet and Hamlet  are mingled by accident. Knowing the plot before the performance, I assumed that the mix...

ザ・シャーロック@イマーシブ・フォート東京

2025年3月5日、イマーシブ・フォート東京にて体験型演劇『ザ・シャーロック』を体験(120分、休憩込み)。従来の演劇とは異なる体験ができて面白かったです。 体験型演劇について イマーシブ・フォート東京は没入型の体験ができるパークです。3月5日現在、4つの作品が上演されていました。私が体験した『ザ・シャーロック』は、舞台上の出来事を客席から観る従来の演劇とは異なり、複数の場所で同時多発的に場面が進むものでした。どの登場人物を追っても良いので、どこを見るかによって得られる情報が異なり、それによって作品に対する感想も一人一人異なるだろうという点が興味深かったです。 作品について 『ザ・シャーロック』は19世紀ロンドンのベイカーストリートが舞台で、シャーロック・ホームズやワトソン、モリアーティ教授などが登場します。ホームズファンには嬉しいものだと思います。また、イギリスが好きという人も楽しめるものだったと思います。というのは、登場人物の衣装や、部屋や街並みのセットが上手く再現されていたと思ったからです。本当に当時のロンドンに紛れ込み、ホームズたちを間近で見ているような気分になりました。 上演後、友人(一緒に行ったけれど上演中は別行動だった友人)と考察し合うのも楽しかったです。異なる場所で異なる場面が展開される今回の作品においては、自分の見たものが絶対的な正解ではなく、作品の一部に過ぎませんし、真犯人による見せかけである可能性もあります。そのような上演の仕方は、ミステリーと相性が良いと思いました。被害者側の場面を中心に目撃した友人と、ホームズを中心に追っていた私が感想を話し合った時、見てきた出来事のタイムラインが異なり、別の作品のようで驚きました。それでも、少しずつ重なる情報もあったので、相手の話を聞いているうちに「(自分が見た時は)この台詞の意味だけ理解できなかった…」と思っていたところに対してパズルのピースが埋まっていくようで気持ちが良かったです。終演時にドリンクチケットをもらい、引き換えた飲み物を片手にパーク内のレストランで話すという、素敵な時間でした。従来の演劇でも、観劇後にカフェなどに立ち寄って感想を話すことがあります。演劇はコミュニケーションのきっかけになると思います。 没入について 19世紀のロンドンに紛れ込んで、ホームズたちの周りで起きる出来事を目撃したよう...

自己紹介 / Introducing myself

このブログを見てくれてありがとうございます。Rena Endoです。日本に住みながら、イギリスの大学院の博士課程(ディスタンスラーニングコース)に所属しています。 It's Rena Endo, living in Japan but attending a British university by distance learning. Research / Activity イギリス演劇を研究する大学院生・大学講師として、劇場と教室を繋ぐ存在になりたいです。その目標のための、学会発表や論文投稿、劇場でのレクチャーについて、お知らせや報告をしていきます。 I'm a PhD student studying the English drama and a Japanese theatre industry, and my ambition is to be active at a classroom and at a theatre; I encourage students to enjoy stage productions (in addition to studying by turning a page), and I give academic (but not-too-formal) lectures to theatre enthusiasts at a theatre. I write about such activities in this blog. Theatre イギリス演劇以外にも、色々なジャンルの舞台芸術を鑑賞することが好きです。観劇の感想を投稿していきます。日本語と英語の両方で書いていくので、英語圏の友人にも読んでもらえたら嬉しいです。日本にはこんな舞台作品があるんだよ!と伝えたいです。 I enjoy seeing various kinds of theatre productions. When I see a performance, I write about what I see and how I think about it. The posts are written both in Japanese and in English, so I'll be happy if English-...