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終わりよければすべてよし&尺には尺を@新国立劇場中劇場

2023年11月11日、新国立劇場中劇場にて『終わりよければすべてよし』と『尺には尺を』を観劇。2020年に完結した歴史劇シリーズでお馴染みの、新国立劇場×鵜山仁×シェイクスピアです。キャストやスタッフも、懐かしい顔が勢揃いでした。今回は、問題劇や暗い喜劇と呼ばれることもある『終わりよければすべてよし』と『尺には尺を』をセットで上演するという試みでした。日によっては片方のみの上演だったり、上演順が変わったりすることもありますが、私はこの順で一日に二本観ました。
ベッド・トリックを共通点に持つ二作品を一緒に上演するだけでも面白いと思っていましたが、共通の役者たちが両方の作品に出演するということによって、興味深さが増したと思います。ヘレナとマリアナ、イザベラとダイアナはそれぞれ同じ役者によって演じられるペアで、一方は夫と結ばれる女性、もう一方は貞節を守ることに成功する女性、というように役柄が鮮やかに見えました。同じカンパニーによる違う作品を観ていると「こちらの登場人物とあちらの登場人物は似ている」「このような性格の役はこの役者に似合っている」などと思うことがあります。シェイクスピアが活躍していた当時、あて書きされた役もあったと思うので、シェイクスピアの国王一座にしても、現代の色々な劇団にしても、劇団の研究は面白そうです。
…と、主要な女性登場人物についてここまで書きましたが、今回の上演で一番好きだと思ったのは『終わりよければすべてよし』の伯爵夫人でした。知恵と経験を積んだ人物ならではの名台詞が多く、本で読んだ時から気になっていたのですが、舞台上の伯爵夫人は言葉のみならず、慈愛を体現した人物として印象に残りました。シェイクスピアの他の作品にも大人の女性が登場しますが、ガートルード、マクベス夫人、マーガレットなどを思い浮かべると、強さと優しさを併せ持った伯爵夫人は特異なように思えます。
特異と言えば、『終わりよければすべてよし』は伯爵夫人の台詞から始まります。上演時、耳で聞いてはっとしたのですが、女性の台詞から始まる作品は『終わりよければすべてよし』だけなのではないかと思いました。帰宅後、シェイクスピア全集で確認したらその通りでした。プロットにおけるヒロインの印象が強く、女性像の表象が問われがちな作品だと思いますが、伯爵夫人も研究してみたいと思いました(そのような研究が既にあるかもしれませんが…)。

On 11 November 2023, I saw and heard All's Well That Ends Well and Measure for Measure at New National Theatre Tokyo. After a series of Shakespeare's history plays, the New National Theatre Tokyo organised a set of dark comedies by the same director, the translator, and the group of actors.
These two plays have a strategy in common: the bed trick. Helena and Mariana were played by one actress and so were Isabella and Diana. The former ones are who seek love by their husbands and the latter ones are who succeed to keep their chastity. When similar roles are played by the same actor, characterisation becomes clearer. Then I got interested in studying actors in one company, including King's Men in Shakespeare's time and also contemporary companies. 
Actually, besides the heroines, I liked the Countess in All's Well That Ends Well. That's because she is wise, experienced and full of affection. She is unique, compared with other mature women in Shakespeare's plays, such as Gertrude, Lady Macbeth, Margaret, and so forth.
Speaking of uniqueness, the play begins with the Countess's line. I hadn't noticed until I heard at a theatre, but this is the sole play by Shakespeare that begins with a line by a female role. Dark comedies tend to make audiences, readers and researchers focus on gender issues of heroines, but I'm more interested in the Countess (such study may already exists, though).



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ナツユメ@KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ

2025年6月7日、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオにて『ナツユメ』を観劇(1時間50分、休憩なし)。『夏の夜の夢』の翻案でした。 ロボットの少女ヘレナが、恋を知り、夢を見るというプロットで、ヘレナの夢という枠組みの中で物語が進みます。ヘレナは最初、私たちがイメージする典型的なロボットの動き方と話し方をしていて、役者の演技が上手だと思いました。ヘレナが恋を知った後も、基本的にはロボットなのですが、感情が高ぶった時には人間らしい動き方や話し方が見られて、その切り替わりの滑らかさが良いなと思いました。 ヘレナはロボットですが、ハーミアは人間です。そして二人は、シェイクスピアの原作通り、幼馴染みでした。ロボットのヘレナと人間のハーミアがどのようにして仲良くなったのか、物語が始まる以前のことを想像したくなりました。人間とロボットが一緒に暮らす未来が近いからかも、と思ってわくわくしました。 職人たちもロボットという設定でした。ロボットの劇団による演劇があったら面白そうだと思うので、こちらも近い未来を想像して楽しくなりました。シェイクスピアの原作でも「職人たちが公爵の御前で演劇!?」というところが面白いと思うので、意外性を持った劇団という意味では今回の上演における彼らも同じかもしれない、と思いました。 今回の上演で最も印象的だったのは、AIアバターがティターニアを演じていたことでした。「演じていた」と言っていいのか、「インプットされた状態で舞台上に存在していた」と言った方が良いのか、表現は難しいところですが、それだけ新しい試みだということです。人間が演じるロボットのヘレナと、そもそもAIアバターであるティターニアの、理由や効果の違いは何だろう?と考えるきっかけをくれる上演でした。ティターニアは、AIの有無にかかわらず、妖精の女王というだけで人間離れした存在です。そのことを表現するのに効果的な演出だったと私は思いましたが、答えは一つではないとも思いました。好きなように感じ取って良い、という上演だったと思うので、とても興味深かったです。 On 7 June 2025, I saw and heard Natsuyume at Kanagawa Arts Theatre in Yokohama. It was an adaptation of William Shakespeare...

ヘンリー四世 第1部@ROCK JOINT GB

2025年5月31日、ROCK JOINT GBにて『ヘンリー四世 第1部』を観劇(85分、休憩なし)。イエローヘルメッツ番外公演として、ライブハウスで、5人の女優が、最小限の衣装と小道具で行うスタイルの上演でした。 イエローヘルメッツは昨年『リチャード二世』を上演していました。その時にボリングブルックを演じていた役者が、今回ヘンリー四世を演じていました。本で読んだ時、両作品におけるボリングブルック=ヘンリー四世は、同じ人物でありながら描写が異なるように思っていました。王としての苦労を経てきたからでしょうか。『リチャード二世』を観劇した時のボリングブルックの印象(立ち向かう側としての強さなど)と、今回のヘンリー四世の印象(王としての孤独や、やり場のなさなど)の違いが、舞台上で鮮やかに見えたので、役者の技量に感動しました。 5人で演じる歴史劇ということで、一人の役者が複数の役を担当していました。どの役者も、別の役を演じる時、表情や立ち方の変化が分かりやすかったので、衣装が変わらなくても混乱することなく楽しめました。 今回の『ヘンリー四世 第1部』だけでも良い上演だったと思いますが、『リチャード二世』も観ていた私はその時との繋がりを考えることでさらに興味深い観劇体験ができました。そうなると、『ヘンリー四世 第2部』も上演してくれたら嬉しいな、と期待してしまいます! On 31 May 2025, I saw and heard Henry IV, Part 1  by William Shakespeare at Rock Joint GB in Tokyo. It was played at a small venue, by five female actors, with simple black clothes (without changing costumes). They performed Richard II last year. The actor who played Henry Bolingbroke at that time played Henry IV this time. When I read both plays, I thought Bolingbroke and Henry IV were described diffe...

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